01導入前の課題
同族経営の甘えと、専門領域が生む見えない壁
創業50年を誇る松波動物病院グループは、腹腔鏡外科の権威である松波登記臣院長を筆頭に、動物病院としての実績と知名度を確立している。
しかし、業績を上げている半面、松波院長は「同族経営特有の課題」に強い危機感を抱いていた。財務や非医療の新規事業を担う実姉の静佳様と、20年以上にわたり現場を叩き上げで支え続けてきた山下様に対し、強い期待があったという。
松波登記臣様:公私ともに全てがうまくいっていなくて、「このままいくとダラダラした40代を過ごしてしまうんじゃないか」という焦りがあったんですよ。自分自身のエンジンを入れ直す目的もありましたし、姉には姉らしい経営を体感してもらって、山下にも責任あるポジションに就いて本気で自走してほしかったんです。そのための組織改革が必要でした。
取締役会は設置されていたものの、過去の報告や軽い相談が中心だった。経営陣として課題に対し本気で議論し、「決めきる」状態には至らない。財務を担当する松波静佳専務は当時の状況をこう振り返る。
松波静佳様:代表とは姉弟ですし、山下も含めて長年の付き合いです。良く言えばアットホームなんですけど、やっぱり「言わなくてもよしなに分かってくれるだろう」って甘えがありました。決めなければいけない重要な経営課題に対しても、ちゃんと決めきるっていうところまでなかなか至らなかった状況だったんです。
さらに、動物病院業界ならではの構造も壁となっていた。業界のトップは専門職である獣医師だ。診療に携わらない非医療陣や、叩き上げで経営陣に加わった山下健太取締役の胸中には、「トップである院長に従わなければいけない」という遠慮が存在していた。
山下健太様:長い付き合いなので雰囲気はわかっていましたけど、いざ経営会議となると少し硬いというか、独特の緊張感がありましたね。意見を出すにしても、どうしても三番目になりがちで、一歩引いてしまう部分があったかなと思います。
02導入の決め手
外部視点の導入と、記憶力に裏打ちされた信頼関係
松波院長とFounders Coach代表・小野村學との出会いは、知人を介した会食だった。当時の出会いを、松波院長は笑顔で語る。
松波登記臣様:とにかく最初から怒涛の質問攻めで、いっぱい喋らされて。だからもう、ご飯を食べた記憶が一切ないんですよね(笑)。でも、その対話を通じて一気に惹き込まれました。
自身をアップデートする目的で、まず個人コーチングを依頼した松波院長。手応えを得た後、「自分らしい経営は見つけていたので、姉には姉らしい経営を体感してもらい、山下にも本気で育ってもらいたい」と、経営チーム全体への伴走へと枠組みを拡大する。
当初、小野村に対して「生きてきた道が違う人」と警戒心を持っていた山下様も、次第に小野村への見方を改めていったという。
山下健太様:数ヶ月ぶりのセッションでも、前回話した細かい内容を覚えていることにすごい驚いたんですよ。いろんな案件を抱えている中で、なかなかできることじゃないなと。そのプロとしての姿勢を見て、本当に信頼できる相手だと感じるようになりました。
静佳専務もまた、事業を伴走する上での「属人性のなさ」や「品質の安定」を評価した。
松波静佳様:今まで受けたような研修っぽいコーチングとは違って、やっぱり自分の悩みを率直にさらけ出せる場所が私には必要だったなって思っています。企業が大きくなると途中で担当者が変わることも多いんですけど、學さんは品質がブレず、ちゃんと私たちを見てくれている。だから毎回スムーズに本音でセッションに臨めるっていうのが、決定的に違うところでしたね。
03取り組みのリアル
「やらないこと」を決め、本音を客観的に翻訳する
伴走が始まると、小野村は経営チーム3人の客観的な翻訳者として機能し始めた。身内だからこそ直接言うと角が立つ意見も、外部の小野村を通すことで冷静に受け止められるようになったのだ。
松波登記臣様:僕も体育会系ですし、山下に対しては「男だから鍛えればいい」という思いもあって。學ちゃんには裏オーダーをちょこちょこ出させてもらって、山下への課題やミッションを伝えてもらいました。僕から直接言うと圧が強くなりすぎることも、學ちゃんフィルターを通すことでスムーズに入る時もあるので、うまく使わせてもらったっていうのはありますね。
また、多忙を極める経営陣に対し、小野村が投げかけた「やらないことを決める」という示唆も転換点となった。
松波静佳様:現場のスタッフが多くて、カード会社の対応など『名もなき仕事』が山のように私たち経営陣に降ってきていたんですよ。そんな時に、「新しいこと、やることを決める以上に、やらないことを決める経営っていうのもすごく大切です」と言ってもらって「あ、そうだよね」ってちょっと肩の荷が下りたというか、ホッとしたのを覚えています。
04経営チームの変化
共通言語(VMV)の再定義と「道標」の共有
2年がかりで取り組んだのが、グループ全体の「ビジョン・ミッション・バリュー(VMV)」の再定義と、「クレドカード」の策定だ。これまで言語化されていなかった組織のカルチャーを創るため、松波院長は強いこだわりを持っていたという。
松波登記臣様:1on1のカルチャーは根付いていたんですけど、そこからさらに「これから私たちがクライアントに対してどうあるべきか」という共通の道標が必要だったんです。今は僕自身が多分誰よりもこのビジョンとバリューに惚れ込んでいて、本当に毎日見て、言ってますね。
このプロセスは、経営陣に加わった山下様にとっても意義深いものとなった。
山下健太様:経営をしていく中では、どうしても「飼い主さんとペットへの想い」みたいな原点が、少し置いてきぼりになりがちなところがあるじゃないですか。それをVMVの中で優先順位の上位に挙げたことで、改めて常に意識していくべき課題として立ち返ることができるようになりましたね。
さらに、この共通言語ができたことで、医療スタッフと非医療スタッフの間にあった心理的な溝が解消されていった。
松波静佳様:私たちは医療従事者ではないですし、関連会社のスタッフも含めて、これまではどうしても少し置いてきぼりな感覚があったんですよ。でも共通言語(VMV)が生まれたことで溝が少し埋まって、誰もが同じ目標に向かって目指していける。「自分たちも松波動物病院グループの一員なんだ」っていう当事者意識を持てるようになったと思います。
互いの役割と強みを認め合ったうえで、必要な時には直言し合える経営チームへと変化していった。
05組織全体の変化
事業の自走化とトップラインの拡大
経営チームの変化は、各事業の具体的な成果として表れていった。
静佳専務は、従来「病院(医療)依存」だったモデルからの脱却を目指し、ベッツジャパンにてペットシッターサービスをゼロから立ち上げた。自ら資格を取得して「自分はやっぱり人が好きなんだ」と事業を牽引する手応えを掴み、50年の知見を活かしたオリジナルPB商品やEC展開も進めている。
一方、山下取締役が率いるサロン・ドッグ幼稚園事業も着実に拡大。数年前まで6名程度だった専任ドッグトレーナーを13名規模へと倍増させ、病院との相乗効果を生み出している。
松波登記臣様:新施設の建設だったり、新規事業に対する投資もしっかりできていて、資産や数字(売上・トップライン)としてはちゃんと伴って出ています。常に自分たちで火をつけ続けている感じはありますし、そのフェーズに合わせて「自分らしい経営」をアップデートしていけているのは、めちゃくちゃ面白いですね。
約3年にわたり伴走を続けてきた小野村は、チームの変化をこう評価する。
小野村:最初にお会いした時は、それぞれが個として優れている集合体だったと思うんです。しかし今では、世界的権威の院長、新規事業を牽引する静佳様、現場を束ねる山下様という役割が明確に噛み合っていますよね。VMVという判断軸を中心に、自分たちで軌道修正できる『自走力』がついたことが、本当に大きな成果だと感じています。
06今後の展望
名古屋から世界へ。地域密着グループの挑戦は続く
腹腔鏡手術の普及、専門サロンの展開、オリジナルPB商品のグローバル発信など、松波動物病院グループの視線はすでに次のステージを見据えている。
松波登記臣様:それぞれの「らしさ」が言語化されて、しっかり住み分けができている状態になりました。同じベクトルに向かって愚直に粛々とやっていけば、今はちょっと苦しいフェーズがあっても、将来は明るいんじゃないかなって確信していますよ。
小野村:これからの日本が社会を支え、世界で戦っていくためには、地域に根ざした伝統ある企業がいかに成長し、挑戦していけるかが鍵を握っていると思うんです。一緒にこの名古屋発、日本発の誇れる価値を、世界へ届けていきましょう。